自己破産|生活保護費の返還を巡る判例

主文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 原告の請求

川崎市多摩福祉事務所長が平成19年3月20日付けで原告に対してした生活保護法63条に基づく返還決定を取り消す。

第2 事案の概要

1 原告は,事故によって右下肢機能障害を負い,生活保護を受給していたところ,その後,事故の加害者らが原告に対し合計して約5200万円の支払義務を認める等の裁判上の和解(以下「本件和解」という。)が成立し,損害賠償の範囲等が確定したことから,川崎市多摩福祉事務所長(以下「処分庁」という。)は,既に給付した生活保護について,原告が資力があるにもかかわらず保護を受けたものであるとして,生活保護法(以下「法」という。)63条に基づいて返還決定(以下「本件決定」という。)をした。
本件は,原告が,生活保護を受けた時点では資力がなかったとして,本件決定の取消しを求めた事案である。
2 法の規定
(1) 法1条
この法律は,日本国憲法25条に規定する理念に基き,国が生活に困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,その自立を助長することを目的とする。
(2) 法4条1項
保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
(3) 法4条3項
前2項(法4条1項,2項)の規定は,急迫した事由がある場合に,必要な保護を行うことを妨げるものではない。
(4) 法63条
被保護者が,急迫の場合等において資力があるにもかかわらず,保護を受けたときは,保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して,すみやかに,その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。
3 基礎となる事実(掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者等
原告は,昭和▲年▲月▲日生まれの男性である。処分庁は,平成16年4月21日付けで,原告に対し,同月8日を実施日とする法に基づく保護決定(生活扶助。支給額月額8万3400円)をした。
被告は,同決定に基づき,同日から平成18年12月31日までの間,原告に対し,生活保護費を支給した(甲1の2,4の6,乙6,21,22)。
(2) 本件訴訟に至る経緯
ア原告は,平成14年8月10日,旅行先のα湖において,友人が運転するモーターボート中央のポールに結ばれていたハンドル付きロープを持ってウェイクボード(いわゆる水上版のスノーボード)に興じていたところ,落水して右足をモーターボートのスクリューに巻き込まれ,○の損傷を負った(以下「本件事故」という。甲3の2,乙1)
原告は,平成15年6月1日,上記傷害により障害等級4級の身体障害者手帳の交付を受けた(乙2)。
イ原告は,平成15年9月25日までに,本件事故の加害者である友人3名から損害賠償金として合計207万円の支払を受け,その後も毎月一定額の支払を受け,平成16年6月ころまでに,合計345万円の支払を受けた(甲3の2,甲4の18の1,乙3,4)。
しかし,原告は,毎月支払を受ける金額に不満があったため,弁護士に依頼して民事訴訟を提起することを考え,また,平成15年9月25日,川崎市多摩福祉事務所において,生活保護申請書の交付を受けた(乙3)。
ウ原告は,平成16年4月5日,民事訴訟提起について相談していた弁護士から本件事故の加害者らに対し,今後は損害賠償金の支払を受けない旨の文書を発送した。
そのため,原告は,同月8日,川崎市多摩福祉事務所において,生活保護受給申請を行い,上記保護決定に基づき,同日から生活保護が開始された(甲4の6,乙5,6)。
エ処分庁は,同月19日,原告に対し,「保護費返還の義務について(指示)」と題する書面を送付した。
同書面には,原告は,損害賠償請求に対する加害者からの賠償金の活用が求められており,現在は原告は賠償金を受給していないので,この収入がない状態で保護を適用するが,賠償金を受給次第,法63条に基づき,福祉事務所長の定める額を返還してもらう旨の記載がある(乙7)。
オ本件原告代理人は,同年5月20日,原告を代理して加害者ら3名に対し,本件事故に係る損害賠償金として8396万7783円の支払を求める通知書を発送した(甲4の7)。これに対し,加害者ら3名は,同年6月11日,川崎簡易裁判所に調停を申し立てた(乙9)。
カしかし,上記調停は不調に終わり,原告は,平成17年3月4日,東京地方裁判所に本件事故に係る損害賠償請求訴訟(同庁平成○年(ワ)第○号。以下「本件民事訴訟」という。)を提起した(甲4の16)。
その後,平成18年11月2日,本件民事訴訟において,原告と,本件事故の加害者であるA,B,Cとの間で本件和解が成立した。
本件和解において,上記Aは,原告に対し,総額2036万1549円の解決金支払義務のあることを認め,これを平成18年11月末日限り100万円,平成18年12月から平成52年1月まで毎月末日限り5万円,平成52年2月末日限り6万1549円に分割して支払うこと,上記Bは,原告に対し,総額1628万3662円の解決金支払義務のあることを認め,これを平成18年11月末日限り1228万3662円,平成18年12月から平成23年1月まで毎月末日限り8万円に分割して支払うこと,上記Cは,原告に対し,総額1605万3662円の解決金支払義務のあることを認め,これを平成18年11月末日限り215万3662円,平成18年12月から平成31年4月まで毎月末日限り7万円,各年7月と12月に各月末日限り10万円,平成31年5月末日限り3万円に分割して支払うことを約した(甲4の19,乙10)。
キ原告は,平成18年11月13日,川崎市多摩福祉事務所に対し,上記のとおり本件和解が成立した旨を連絡し,同月20日,和解調書の写しを提出した(乙11,12)。
ク原告は,同年12月15日,処分庁に対し,平成19年1月1日より生活保護を辞退する旨の生活保護変更申請書を提出した。川崎市多摩福祉事務所の担当者は,その際,原告に対し,生活保護開始から支給した保護費全額を返還するように伝えるとともに,初回の損害賠償金が振り込まれたらすぐに通帳の写しを提出するよう伝えた(乙13,14)。
ケ処分庁は,平成19年1月4日,原告代理人から,今後生活保護費返還を巡る法律問題については,同人宛に連絡するようにとの就任挨拶状を受領した。
処分庁は,同月24日,原告代理人宛に「D氏の生活保護費の返還について(通知)」と題する書面を送付し,加害者らから損害賠償金を受領した以上,受給した生活保護費を返還するよう指示した(甲2の3,乙15,16)。
コ処分庁は,同年2月14日,原告に対し,「福祉事務所への収入申告について(通知)」と題する書面を送付し,法61条に基づき,損害賠償金に係る収入申告をするように通知した(乙17)。
原告は,同年3月2日,処分庁に対し収入申告書を提出した。川崎市多摩福祉事務所の担当者は,同収入申告書によっては損害賠償金の受給年月日が不明であるとして,原告に対し,再度収入申告書の提出を求め,同月15日,損害賠償金の受給年月日,金額が記載された収入申告書を受領した(乙18ないし20)。
サ処分庁は,同月20日,原告に係る生活保護を平成19年1月1日をもって廃止するとともに,平成16年4月から平成18年12月までの扶助費及び医療費479万6127円の返還決定(本件決定)をした(甲1の1・2,乙21,22)。
シ原告は,同年5月10日,本件決定が不服であるとして,神奈川県知事に対し,審査請求を行ったが,神奈川県知事は,同年6月29日,同審査請求を棄却した(甲5の1・2)。
ス原告は,同年11月8日,横浜地方裁判所川崎支部に対し,本件訴訟を提起した。その後,本件訴訟は,当庁に回付された。

第3 争点及び当事者の主張

1 争点
本件の争点は本件決定の適法性であり,具体的には次の2点である。
(1) 原告が,本件事故に係る損害賠償金を「資力」(法63条)として取得した時期(争点(1))
(2) 費用返還義務の対象に医療費を含めることの適法性(争点(2))
2 争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1)(原告が,本件事故に係る損害賠償金を「資力」(法63条)として取得した時期)について
(被告の主張)
ア生活保護は,生活に困窮する者が利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを前提に保護の要否を判断すべきものとされており,このような生活保護の補足性に照らせば,本件のように加害者に対し,損害賠償請求権を有する場合には,加害者が賠償をなし得る限り,同権利を行使して損害賠償金を受領することが可能なのであるから,同権利を「利用し得る資産」と評価し,損害賠償責任の範囲に争いがあるなど,その権利実行に支障がある場合には,法4条3項にいう「急迫した事由」があるものとして,生活保護受給資格を認めるのが妥当である。
この点,最高裁昭和42年(オ)第1245号同46年6月29日第三小法廷判決・民集25巻4号650頁(以下「昭和46年最判」という。)は,「交通事故による被害者は,加害者に対して損害賠償請求権を有するとしても,加害者との間において損害賠償の責任や範囲等について争いがあり,賠償を直ちに受けることができない場合には,他に現実に利用しうる資力がないかぎり,傷病の治療等の保護の必要があるときは,同法4条3項により,利用し得る資産はあるが急迫した事由がある場合に該当するとして,例外的に保護を受けることができるのであり,必ずしも本来的な保護受給資格を有するものではない。
それゆえ,このような保護受給者は,のちに損害賠償の責任範囲等について争いがやみ賠償を受けることができるに至つたときは,その資力を現実に活用することができる状態になつたのであるから,同法63条により費用返還義務が課せられるべきものと解するを相当とする。」と判示している。
イ本件において,原告は,本件事故後平成16年6月までに加害者ら3名から合計345万円の損害賠償金の支払を受け,その後,原告からの一括請求や調停の開始によりその支払が中断されたものの,本件和解により,平成19年2月末までに1613万7324円の支払を受けていること,本件民事訴訟が本件和解で終了するまでに相当期間経過しているものの,その間に加害者らが自らの責任を否定する主張を繰り返し,本格的に損害賠償責任を争った形跡はうかがえないことからすれば,原告が加害者らに対して有していた損害賠償請求権は十分に実現可能で,法4条の「資産」と評価するに足りるものである。
原告は,生活保護開始時において,「利用し得る資産」を有していたものであるから,法4条1項に基づく生活保護受給資格を有していなかったものである。
しかし,急迫した事由があるとして法4条3項により生活保護受給資格を認められたものであるから,平成19年1月1日をもって生活保護が廃止されたことに伴い,それまで受給した生活保護費等の返還義務を負うのは当然であり,本件決定に違法はない。
(原告の認否等)
ア法63条は,被保護者に資力があるにもかかわらず,その資力が現実化しなかったために保護を利用したことにより,資力を有する期間の保護費を現実化した資力の範囲内で被保護者に返還させる制度である。
資力を有していて必要のない保護を給付していたのであるから,資力が現実化したときには,保護の決定の全部又は一部を取り消して被保護者に不当利得返還請求をするのが行政手続の基本である。
しかし,生活保護では現物給付により医療費を支給していることから,保護の全部又は一部を取り消すと,医療機関に対する支払も取り消され,福祉事務所は医療機関から返還を受け,医療機関が被保護者に請求しなければなくなる。
善意の第三者であり,保護実施の協力機関である医療機関にこのような負担をさせるのは適切ではなく,法律関係を簡明ならしめるために同条が規定されたのである。
以上からすれば,同条は処分取消,不当利得法理に従って解釈されなければならない。
イ原告が本件事故に係る損害賠償金を「資力」として取得した時期については,本件事故の加害者らが本件事故に関して一切争わないのであれば,本件事故時に原告に「資力」があったとみることはできる。
しかし,本件事故の加害者らは,本件事故の発生につき原告に過失があると主張して損害賠償責任を争ったため,最終的に本件和解で本件民事訴訟が解決するまでには訴訟提起から1年8か月余りもの年月を要した。
原告が本件和解により現実に加害者らから損害賠償金の支払を受けるまでは,原告に生活保護費以外の収入が入ってくる予定はなかった。
本件民事訴訟は,原告が法律扶助による援助によって初めて訴訟提起が可能になったものである。
したがって,少なくとも,本件和解の成立日である平成18年11月2日以前には原告に「資力」があったとはいえない。
そこで,原告が現実に損害賠償金の支払を受けられるようになるまでの間に受けた保護は,法63条に基づく保護費返還の対象にならない。
(2) 争点(2)(費用返還義務の対象に医療費を含めることの適法性)について
(原告の主張)
本件決定により返還が義務付けられた保護費には医療費が含まれているが,原告は障害等級4級の身体障害者であり,障害者自立支援法に基づいて医療費の免除を受ける可能性があるのであって,費用返還義務の対象に医療費を含めていること自体が違法であり,本件決定は違法である。
(被告の主張)
原告の主張は争う。
原告の主張は,そもそも原告が医療費の免除を受けていることを前提としているのかどうか,仮に医療費の免除を受けているとすればどのような形で医療費の免除を受けているのか,仮に医療費の免除を受けていないとすれば,受ける可能性があるというだけでなぜ医療費について生活保護法63条に基づく費用償還義務が免除されるかなど,趣旨が不明であって主張自体失当である。
なお,原告が障害者自立支援法に基づく自立支援医療制度を利用する場合には医療費の免除を受ける可能性があるが,原告は自立支援医療制度を利用する上で必要な申請を行った事実が認められないから,同制度による医療費免除の資格はなく,原告が医療費の免除を受けることはできない。
仮に,原告が何らかの形で医療費の助成を受け,医療費の一部ないし全部が免除されているのであれば,医療費として受領した生活保護費はまさに過大支給であり速やかに返還すべきものに該当すると解される。
そうすると,医療費について償還義務がないとする原告の主張には理由がない。

第4 当裁判所の判断

1 争点(1)(原告が,本件事故に係る損害賠償金を「資力」(法63条)として取得した時期)について
(1) 前記基礎となる事実及び証拠(乙20)によれば,原告は,平成14年8月10日,本件事故により受傷し,平成16年6月ころまでに,本件事故の加害者ら3名から,損害賠償金として合計345万円の支払を受け,平成18年11月2日に成立した本件和解に基づく解決金として,その後平成19年2月27日までに合計1613万7324円(乙20では,原告が受領した解決金の合計額が「16237324」円となっているが,誤記であり(同証記載の平成18年11月28日受領額の「小計」,「累計」欄に誤算がある。),正確には「16137324」円であると認められる。)の支払を受けたことが認められる。
また,弁論の全趣旨によれば,処分庁は,本件事故日である平成14年8月10日に原告が本件事故に係る損害賠償請求権を法63条にいう「資力」として取得したものとして,本件決定を行ったものと認められる。
(2) 法は,法4条1項において,保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる旨規定して,いわゆる保護の補足性の原則を定め,保護の本来的な受給資格について明らかにするとともに,法8条1項において,保護の程度についても,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行う旨規定し,さらに,法60条において,被保護者は,常に,能力に応じて勤労に励み,支出の節約を図り,その他生活の維持,向上に努めなければならない旨規定している。
これらの規定は,法の定める生活保護制度が,自己責任の原則を前提とした上で,憲法25条の理念に基づき,生活に困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障することによって,その自立を図る補足的な制度であることを明らかにしたものということができる。
他方,法4条3項は,同条1項の規定は,急迫した事由がある場合に,必要な保護を行うことを妨げるものではない旨規定している。
これは,保護の補足性の原則を形式的に貫き,生活に困窮する者が,法4条1項にいう利用し得る資産等を有する場合においても,これを直ちに現実に活用することが困難であって当該資産等をおいては他に利用し得る資産を有しない等の理由により,当該生活困窮者が,その生存を危うくしているなど,社会通念上これを放置し難い程度に状況が切迫している場合にまで保護を行わないこととすると,国民の最低限度の生活を保障しようとする法の趣旨目的に著しく反することになるため,このような場合には,上記補足性の原則に照らせば本来的な保護の受給資格を有するということはできないものの,例外的に,保護を受けることができることとしたものと解される。
以上のような法4条の趣旨及び文言に照らせば,法4条1項にいう「利用し得る資産」とは,現金等,直ちに現実に活用することが可能な資産はもとより,その性質上直ちに処分することが事実上困難であったり,その存否及び範囲が争われる等の理由により,直ちに現実に活用することが困難である資産も含まれるというべきである。
これを事故に関する損害賠償請求権に即してみると,事故の被害者は,事故時において直ちに加害者に対し不法行為に基づく損害賠償請求権を取得するのであるから,たとい,加害者等の賠償義務者との間で,当該損害賠償請求権の存否及び範囲等について争いがあり,事実上これを直ちに行使し活用することが困難な状況にあるとしても,上記損害賠償請求権は,賠償義務者がその支払能力を欠くなど当該損害賠償請求権が客観的に無価値であるような場合を除き,事故時以降,法4条1項にいう「利用し得る資産」に該当するものというべきである。
そして,上記のとおり,法4条3項は,同条1項にいう「利用し得る資産」を有する場合においても,急迫した事由がある場合には保護を受け得ることを規定しているのであるが,先述のとおり,このような場合における保護は,同条1項が規定する補足性の原則に照らすと例外的な措置であって,この場合の保護受給者は,本来的な保護受給資格を有するわけではない。
法63条は,被保護者が,急迫の場合等において資力があるにもかかわらず,保護を受けたときは,保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して,すみやかに,その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない旨規定しているのであるが,これは,前記のような法の定める生活保護制度の性格及び法4条3項に基づく保護の性質を踏まえ,同条に基づき保護を受けた場合等において,当該保護受給者においてその資力を現実に活用することができる状態になったときには,当該保護受給者に対し,その受けた保護につき費用返還義務を課すこととしたものと解される。以上のような法63条の趣旨及び同条と法4条との関係にかんがみると,法63条にいう「資力」とは,法4条1項にいう「利用し得る資産」と基本的には同義であって,法63条の「資力があるにもかかわらず,保護を受けたとき」に該当するためには,保護を受けた時点(保護の受給時)において「利用し得る資産」を有していることを要するものと解するのが相当であり,現実に直ちに活用することができるか否かはこの「資力」該当性を左右しないものというべきである。
以上を前提として本件について検討するに,原告は,本件事故によって,事故日である平成14年8月10日,本件事故の加害者ら3名に対し不法行為に基づく損害賠償請求権を取得したと認められる。
そして,前記基礎となる事実並びに証拠(甲5の2,乙3)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件事故後に,富士吉田警察署長から本件事故の被害者であることの証明を受け,平成15年9月25日の段階で,加害者ら3名から,入院中の医療費を負担してもらうほか,合計207万円の損害賠償金を受領し,今後月額8万円の賠償金を受領することになっていたこと,しかし,今後損害賠償金を受領すると加害者らに対して裁判を提起できなくなるとして,平成16年4月5日には,委任した弁護士を通じて加害者らに対し,損害賠償金の受取りを拒否し,生活保護を受給することを選択したことが認められる。
そうすると,本件事故に係る損害賠償請求権は,客観的に無価値であるような例外的な場合に該当せず,法4条1項にいう「利用し得る資産」に該当するものというべきであり,原告は,本件事故日に,同損害賠償請求権を法63条にいう「資力」として取得していたというべきである。
前記基礎となる事実認定のとおり,処分庁は,生活保護を開始するに当たり,原告に対し,文書(乙7)を送付して指示をしたが,同文書には,原告は,加害者らからの賠償金の活用が求められ,これを受給次第,処分庁が原告に対し,生活保護法63条に基づいて,定める額の返還を求めることになる旨の明示の記載がある。
そして,原告は,平成18年11月2日,本件和解を成立させたが,これによって本件事故に係る損害賠償請求権の存否及び範囲を確定させ,上記損害賠償請求権を資力として現実に活用できる状態とし,その後,この和解内容に従って,本件決定を受けるまでに,本件決定の返還額479万6127円を遙かに上回る1613万7324円の受給を受けている。
したがって,処分庁において,原告に対し,法63条に基づき,本件決定を行ったことは正当である。
(3) これに対し,原告は,原告が本件和解により現実に損害賠償金の支払を受けられるようになるまでに受けた保護は,法63条に基づく保護費返還の対象にならないと主張する。
原告の上記主張は,法4条1項にいう「利用し得る資産」ないし法63条にいう「資力がある」とは,理念的な存在ではなく,現実の「利用し得る資産」及び現に「資力」を有する状態をいうものと解すべきであるとの考え方に基づくものと解される。
しかしながら,法4条1項にいう「利用し得る資産」ないし法63条にいう「資力」について,現実に直ちに活用することができることを要しないものと解しても,現実にこれを直ちに活用することができないがために生活に困窮している等,急迫の事由がある場合には,前記のとおり,法4条3項に基づき保護を受けることも可能なのであって,ただ,このような場合には,後に当該資産が現実に活用することができるようになったときに法63条に基づく返還義務を課され得るにすぎない。
そうすると,法4条1項にいう「利用し得る資産」ないし法63条にいう「資力」につき,前記のような解釈をとっても法の趣旨目的に反するものではない。
むしろ,原告の主張するように,現実に支払を受けるなどして実際に活用することができるものでない限り,法63条にいう「資力」に該当しないとすることは,前記のような生活保護制度の補足的性格と相いれないというべきである。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(4) 以上のとおり,原告は,生活保護開始時において,「利用し得る資産」を有していたものであるから,本来的に法4条1項に基づく生活保護受給資格を有していなかったが,急迫した事由があるとして法4条3項により生活保護受給資格を認められたものである。
したがって,平成19年1月1日をもって生活保護が廃止されたことに伴い,法63条に基づき,それまで受給した生活保護費等の返還義務を負うことになるものであって,本件決定は適法というべきである。
2 争点(2)(費用返還義務の対象に医療費を含めることの適法性)について
原告は,本件決定により返還が義務付けられた保護費には医療費が含まれているところ,原告は障害等級4級の身体障害者であり,障害者自立支援法に基づいて医療費の免除を受ける可能性があるのであって,費用返還義務の対象に医療費を含めていること自体が違法であり,本件決定は違法であると主張する。
そこで,生活保護制度と障害者自立支援法に基づく自立支援医療制度との関係について検討するに,生活保護の中には医療扶助が含まれ(法11条,15条),生活保護費として一定の医療費が支給されるところ(なお,支給方法につき法34条),その範囲の一部は自立支援医療制度に基づく自立支援医療費と重複する。
しかし,前述のとおり,生活保護は補足的に行われるものであるから,生活保護以外の手段により支援を行うことが可能である場合には,他の手段による支援を優先的に行うべきものである。
したがって,医療扶助を受ける被保護者が,自立支援医療費の支給認定を受けた場合には,生活保護の補足性から,自立支援医療費の支給範囲に係る医療扶助について保護費支給に理由がなくなり,法25条2項に基づき,それまで受給していた医療扶助を不支給とする旨保護内容が変更されることもあり得るというべきである。
もっとも,自立支援医療費の支給認定を受けるには,申請者による申請が必要であり(障害者自立支援法53条1項),仮に,自立支援医療費の支給を受けることができる者であっても,その申請がなされず,支給決定を受けていなければ自立支援医療制度を利用することはできない。
したがって,自立支援医療費と生活保護費との関係が問題となるのは,自立支援医療費の支給申請を行い,支給決定を受けた者についてということになる。
本件では,弁論の全趣旨によれば,原告は自立支援医療費の支給申請を行っておらず,自立支援医療費の支給決定を受けていないと認められるから,自立支援医療費と生活保護費との関係が問題となることはない。
また,そもそも,生活保護法による支給は,本件事故の損害賠償請求が問題となった本件民事訴訟において損害額からの控除の対象にはならないものであり(昭和46年最判参照),この理は,扶助費としての支給であっても医療費としての支給であっても異ならないと解される。
そうすると,法63条に基づき費用返還をするに当たり,医療費も当然に含まれるものと解するのが相当である。
したがって,本件決定が,法63条に基づく費用返還義務の対象に医療費を含めていることは適法であるというべきである。
3 まとめ
以上のとおり,本件決定は,適法であると認めることができるから,原告の請求は理由がない。

第5 結論

よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。

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本人訴訟の場合、貸金業者側の反撃に遭い、後記の民法704条に基づく利息を付さない和解に追い込まれるケースが多いといわれ、また、後掲のように、取引履歴の不開示があったり、充当関係で複雑な事案であったりすると、本人訴訟で法律上正しい金額の返還を受けることは極めて困難なのが現実。

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事業の失敗など、借金を全額返済出来ない状況になったら債務整理をするしかありません。
債務整理とは多額の借金を負ったとき、多重債務に陥ったときに、債務者の再生させるいくつかの方法のことを言います。
最も有名なやり方は自己破産です。
一般の方は自己破産のイメージのみあるため、債務整理に二の足を踏みがちです。
住宅ローン特則(「住宅資金貸付債権に関する特則」)という手続きを利用して個人再生をすればマイホームを失わずに借金を整理出来る場合があります。
自分が債務整理をする場合、実績が多数ある弁護士・司法書士を探しましょう。
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自己破産・個人再生以外にも任意整理・特定調停といった方法がありますので、個別に弁護士や司法書士に相談してみて下さい。

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